エッセイ / 言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか
★★★★★
ナイツ塙によるお笑い論。
関西におけるお笑い文化をサッカー界でいうところのブラジルであるという表現が全てだと思う。
そこで本のタイトルの答えは出てしまっているのだが、彼が凄いのはそこで終わらずに『笑いの構造』について因数分解を解くように説明している点である。
とにかく分かり易い。
お笑いにセンスは必要だが、理詰めで考え抜いた構成こそが賞レース、ひいては芸能界で生き残る根拠となり得ることを明確に伝えてくる。
売れる芸人には根拠が必ずあり、それが何なのか。そして、そこにたどり着くまでの思考の過程はどうだったのか。
まさにお笑いは数学である。
特に興味深かったのは、自虐ネタに対する上沼恵美子の審査内容である。
M-1において同じ自虐ネタを扱った異なるコンビで審査内容を分けた彼女の立ち位置は当時批判の対象になった。
かく言う私も同様の感想を持った。上沼恵美子は横暴だと。
しかし、違った。
自虐ネタは安易である。芸歴ある立場の人間は、楽なネタに逃げるなということ。
そこそこの芸歴でまだそこにしかたどり着いていないのか。という批判である。
もっと真摯にネタに向き合えという叱咤だった。
M-1という舞台を題材に笑いの構造と覚悟をその芸風と同様に淡々と説いている。
昨今のお笑い論の中でも至極の濃さの内容であった。
しかし、この解説によりお笑い賞レースのハードルが一段高くなったのも確かだ。
0